日記帳

感想とか

舞台「アンプラネット」感想

 

CHaCK-UPというアイドルグループを好きになった。太陽系惑星出身の宇宙人たちによる、惑星アイドルグループ。

後発の弟分的グループであるアンプラネットは準惑星アイドルグループで、CHaCK-UPのヘルプクルーである冥王星人ポミィをリーダーとして迎え入れている。

その結成にまつわるストーリーを描いた舞台「Un-Planet」のDVDを観た。

時系列を前後しながら場面が進み、パズルを嵌めるように謎解きがなされていく映画的構成で、繰り返し見たくなる面白さだった。SF要素の強い世界観はとても楽しめたし、楽曲の素晴らしさは相変わらずの威力でもってアンプラネットというグループに自分を惹きつけた。

しかし、どうしても胸につかえる何かがある。

 

アイドルの兼任

アイドルの兼任というのは、なかなかにデリケートな問題だと思う。二つのグループを8年間掛け持ちして、どうにもできないスケジュール上の問題から片方からは脱退したアイドルがいる。当時の脱退グループのメンバー、ファンの苦しみは計り知れず、容易く癒えない痛みを明確にグループにもたらした。しかし、アイドルには物語が必要ではあるし、事実、大きな危機を乗り越えた彼らはより一層その魅力を増している。*1

また、他のグループとの兼任を言い渡され愕然とするアイドルを見たことがある。必死で築き上げたグループでの経験、絆、プライドが通用しない不安は絶大だろう。それはファンにとっても同じで、どうしようもない抵抗感ややり場のない憤りを覚えることもある。しかし、兼任メンバー目当てに見始めたらそちらのグループにもハマってしまった、なんてことはままあるし、兼任を通して「人生とは何かを語れる友が出来た」と語るアイドルがいればその眩しさに屈服するしかない。*2

なので自分にとって、兼任というのはある程度希望を持って受け入れることの出来る制度であったはずだった。なのになぜ、冥王星人ポミィというアイドルを取り巻く二つのグループについて考えるとこんなにも苦しいのか。

 

美波日音の決意とアンプラネットメンバーの狙い

ポミィを演じる美波日音は、自分を引き入れようとするアンプラネットメンバーが自分を「心から必要としてくれてるのを感じて嬉しかった」から彼らのスカウトに応えることを決めた。しかし、アンプラネットメンバーが本当に手に入れたいと思っているのは日音ではなく彼の中に眠る宇宙人ポミィ姉さんであって、ポミィ姉さんがメンバーの思惑通り完全に目覚めたら日音の意識は消えてしまうだろうことが、作中示唆されている。

日音がアンプラネット加入を決めた場面でのチャックアップへの言及「チャックアップは兄ちゃん、美波旅生のグループだから」は鋭く胸に突き刺さるものがあるが、チャックアップというグループで「ヘルプクルー」という複雑な立ち位置であった日音がずっと抱えてきた気持ちなのだと思う。その後に続く「チャックアップが大好き。大好きだから超えたい!」という言葉が、前向きに希望を、そして野望を持ってアンプラネットに加入する日音を応援していこうという気持ちにさせる。だが、同じ気持ちだよね?と聞く日音に曖昧に笑いかけるセシィは彼らの目的が全く違う所にあることを示している。

彼らがアイドルとして活動する目的は日音の中に眠るポミィ姉さんを取り戻すこと、そして姉以外にも地球人に眠る仲間の宇宙人を探し出し故郷の星に帰ることであって、「準惑星」アイドルというコンセプトを立ち上げたのもチャックアップに憧れているという設定もその為の策であるようだった。

日音がチャックアップというグループは本来兄のもので自分は留守を預かっているにすぎない、兄が帰ってきたら自分はいなくてもいい、とずっと思っていて、アンプラネットに自分の居場所を見出したのだとしたら。そこはセシィたちの姉の場所ではなく、確かに日音の居場所になってくれるだろうか。アンプラネットでチャックアップを超えるという日音の決意に、彼らは寄り添ってくれるだろうか。

 

冥王星準惑星

ポミィの複雑な立ち位置は、ポミィに与えられた星である冥王星の境遇に通じるものがある。冥王星という星は、長らく太陽系第九惑星として親しまれてきた。2006年に惑星の定義から外れ、新たに「準惑星」として再分類された際には、驚きと共に寂しさのようなものを感じた。*3

ポミィのチャックアップ加入時、初期メンバーに充てられていない惑星「海王星」が残っていた。しかしポミィはヘルプクルーという立場からか、海王星人ではなく準惑星である冥王星人としてチャックアップに参加することとなる。(余談だがエリィにより遮られたヴィーの「その特性を持つ星(セシィ達の故郷)は…」に続くのは海王星なのだろうか。「君たちは準惑星人なんかじゃない」という言からしても。海王星は西洋占星術において夢想や潜在意識といった「目に見えないもの」を司り、セシィたちは「姿を持たない宇宙人」であると語られている)

冥王星は「惑星」から「準惑星」になった。それはチャックアップのクルーからアンプラネットのクルーとなったポミィと合致する。

準惑星】という言葉が、冥王星が惑星ではなくなるという衝撃を常に伴って知られていった言葉であることを考えると、準惑星アイドルであるアンプラネットはポミィあっての存在であり、ポミィは準惑星アイドルアンプラネットあっての存在だとも感じられる。だからこそ余計にアンプラネットに日音の居場所を求めてしまうし、それこそがセシィ達の狙いなのかもしれない。

 

ペルセポネーの神話

留学した美波旅生に代わって日音がチャックアップに加入することになった経緯を描いた「CHaCK-UP~ねらわれた惑星~」では、日音はチャックアップのリーダー天宮王成に「地球をねらう宇宙人だ」という疑惑をかけられる。これは記憶喪失に陥っていた天宮の思い込みでしかないのだが、この頃にはすでに日音の中に宇宙人ポミィが眠っていたことを考えると、天宮は奇しくも真実に近いことを言い当てていたことになる。

この疑惑を強めた理由の一つに、ポミィのキャッチフレーズ「一粒食べたら戻れない、禁断の果実」がある。含みを持たせた、いかにも怪しげなフレーズだ。このキャッチフレーズのモチーフとなっているのが、冥府の王ハーデスとその妻ペルセポネーの馴れ初めにまつわる神話である。ハーデスはギリシャ神話の神でありローマ神話ではプルートと呼ばれ、これが冥王星の名前の由来となっている。

この神話が、アンプラネットというストーリーに高い共通性を見せている。

冥界の王ハーデスは地上で美しい娘ペルセポネーに恋をし、強引に冥界へ連れ去ってしまう。ペルセポネーは丁重に扱われるが、ハーデスに心を開かない。ペルセポネーの母デーメーテールはたいそう怒り、父ゼウスは冥界に使いを出しハーデスにペルセポネーを解放するよう求める。ハーデスはそれに応えるが、ペルセポネーを地上に返す前に彼女にザクロの実を差し出す。空腹であったペルセポネーはこれを何粒か口にしてしまう。地上に帰還したペルセポネーだが、冥界の食物を食べたものは冥界に属さなければならないという神々の取り決めがあった為、ハーデスの元へ戻らなければならなくなる。そしてペルセポネーはハーデスの妻となる。まさに、禁断の果実を一口食べたために戻れなくなってしまったのだ。

「どうしても手に入れたいからって強引なのはよくないです」とは作中のヴィーの言であるが、本人の意思に関わらずペルセポネーを手に入れようとしたハーデスと、誘拐を自作自演してまで日音を手に入れようとするセシィ達の強引さはどこか似通っている。

神話におけるザクロの実のように、アンプラネットにも物語のキーアイテムがある。セシィたちが乗っていた宇宙船の部品であるオーパーツだ。地球上に本来存在しないはずだったオーパーツ。「宇宙人の持ち物」であったそれは、まさに冥界へ誘う禁断の果実のようにセシィから日音に差し出される。オーパーツに触れ鳴上達の元へ戻った日音はアンプラネットに入る決心を固めており、セシィに「無性に君のことを信じたくなった」と伝える。これが無意識下でポミィ姉さんに影響を受けたのかは判断出来ないが、彼女の存在を意識できないはずの日音が自身のアイドルとしての名前に「ポミィ」と付けたことを考えると、日音とポミィ姉さんの意識はどこか繋がっているのだろう。

 

CHaCK-UPーEpisode0ー

チャックアップがアンプラネットを引き連れて登場したエピソードゼロというミュージカルは、時系列で見れば日音がアンプラネットに入る決心をしたあとに演じられたものである。アンプラネット作中で語られたように、日音が天宮にその思いを伝えたあとということになる。

改めてこのミュージカルを観ると、ポミィを主役ポジションに据えチャックアップのリーダーであるレイとの友情を描いたこのストーリーこそ、天宮王成から美波日音へのアンサーであるようにも感じられる。レイ皇子と出会い葛藤しながらも信頼関係を育む便利屋ポミィは、ヘルプクルーとして加入したチャックアップでメンバーやファンとの関係を築いてきたアイドルポミィの姿と重なる。そして物語の終盤、ともに困難を乗り越えたレイ皇子と便利屋ポミィに待っているのは、離別だ。「一緒に行けない」と言うポミィを必死に引き止めるレイの姿は、まさにアンプラネットを観た自分の日音に対する姿であり、日音の決心を聞いた天宮がこうであってほしいと自分が願う姿でもあった。「(アンプラネットが)僕のことを心から必要としてくれてるのを感じて」「チャックアップは兄ちゃんのグループだから」というような言葉を天宮も聞いたのかは分からないが、レイがポミィに「お前が必要だ」と言ってくれた。それだけで、自分の懸念や寂しさが吹き飛ぶ気がした。

もちろんタイトルのようにエピソードゼロは宇宙人アイドルたちにとっての始まりの物語である。役柄と演者の歩みが重なるのはアイドル舞台ものの醍醐味の一つであるが、チャックアップの場合ミュージカルでの役を演じる宇宙人アイドルの向こうにはさらにSOJ学院の学生やOBがいることを自分たちは知っている。

M11テイクオフはキャプテンレイ率いるシャトルの旅立ちとともにポミィの旅立ちの希望を明るく示してくれる。ポミィを舞台の中心に据え、レイ、ドット、ジュジュ、ヴィーがその周りを取り囲む。曲を終えた彼らはポミィと空中で拳を突き合わせ笑うと、ポミィを一人舞台に残し去っていく。どこか名残惜しそうにしながらも寂しげに笑ってポミィの旅立ちを見送るレイの姿の向こうに、天宮の姿を見てしまう。レイとの約束を握りしめ、強い眼差しで歩き出すポミィの姿に、アンプラネットのリーダーとして歩き出した日音の姿を見てしまう。

 

アンプラネットの行く末

自分にとってのアイドルは、ファンタジーでありドキュメンタリーでもある。楽曲の登場人物である彼らに夢を見て、その裏側にある葛藤や喜びを知って胸を打たれる。相反する二つの要素が表裏一体に存在しているからこそこんなにも夢中になる。オープンキャンパスでのライブ構成から見ても、アンプラネットはフィクション(アイドル)とノンフィクション(宇宙人兄弟の物語)が濃密に結びついている。

自分は地球人であって美波日音のファンでもあるので、宇宙人セシィたちの狙いがやはりどこか恐ろしい。一方で、意図せず地球人に憑依することになり徐々に意識を奪われていく彼らの恐怖、姉を失った苦しみは想像して余りある。そして大切な兄弟を取り戻そうとする切々とした願いも。姉が記憶を取り戻し共に故郷に帰ることがいつか叶うとして、その時日音や蒼たちの身体は本人のもとに帰ってくるのだろうか。

「兄ちゃんが帰ってくるまでこのチームを支えるよ!」と言った日音。ヴィーの金星語を聞き取れるようになったポミィ。チャックアップというグループでアイドルとして歩んできた彼の姿は、今この瞬間まで繋がっている。そんな彼が蒼、璃紅、いるか、真滉と共に目指すことを決めたアンプラネットというグループの未来が、輝かしい希望に満ちていることを願う。

 

 

 

 

*1:ジャニーズ事務所所属のアイドルグループNEWS

*2:秋元康プロデュースによる48グループ。「太宰治を読んだか」は名曲だと思う

*3:セーラームーンを観ていた世代としては「せつなさんが仲間外れに」と切なくなったりもした